医療の質 QI推進活動報告2016年
はじめに
QIとは、Quality Indicator(質の指標)の略で、構造(ストラクチャー Structure)過程(プロセス Process)結果(アウトカム Outcome)の3つの側面で評価されます。またQIは、Quality Improvement(質の改善)という意味もあります。
自分たちの提供している医療の質がどうなのかを指標という形で数値で表し、それを継続的に測定しさらに改善に生かしていくことをめざしています。QIは「どれだけがんばった」から「どれだけよい結果につながったか」をしめすモノサシでもあります。
東大阪生協病院は2012年から全日本民医連QI推進事業に参加し、2014年から毎年QI活動報告集会を行っています。今回、2016年の指標(民医連指標および病院の独自指標)の一部に関してホームページ上での公開を行います。
民医連指標の意義、指標の計算式(分子・分母の定義)などは下記のホームページを参照してください。
参照:全日本民医連「医療の質の向上・公開推進事業」(https://www.min-iren.gr.jp/hokoku/hokoku.html)
公開指標一覧
#1 安全管理
#2全身ケア(栄養管理・褥瘡)
#3 感染管理
- ① 注射針及びそれに準じる鋭利な器具による皮膚の損傷からの血液曝露例件数(民医連指標12)
- ② 中心静脈カテーテル感染率(民医連指標13)
- ③ 総黄色ブドウ球菌検出者のうちのMRSA検出率(民医連指標14)
- ④ アルコール手洗い使用割合(民医連指標15)
- ⑤ 血液培養ボトルが2セット提出された患者割合
- ⑥ 血液培養での表皮ブドウ球菌コンタミネーション率
#4 認知機能評価
#5 チーム医療・退院支援・地域連携
#6 がん検診
#7 患者満足
#1 安全管理
① 転倒・転落発生率(民医連指標8)
【指標の意義】
転倒・転落を予防し、外傷を軽減するための指標、とくに治療が必要な患者を把握する
指標として3項目
A 入院患者の転倒・転落発生率
B 治療を必要とする転倒・転落発生率
C 損傷レベル4以上の転倒・転落発生率 (分子 それぞれの件数 分母 入院患者延べ数)
【2016年当院数値】
A 転倒・転落発生率 4.93‰(件数171 2015年 5.01‰ 170件)
B 治療を必要とする転倒・転落発生率 0.14‰(件数5 2015年 0.21‰ 7件)
C 損傷レベル4以上の転倒・転落発生率 0.06‰(件数2 2015年 0.12‰ 4件)
【考察】
いずれも数値は前年を下回っており、民医連中央値よりも低値である。
軽微な事象をふくめ、転倒・転落事故を0にすることは困難であるが、転倒リスクを評価し環境設定を適切に行うこと、転倒した際の障害発生などを最小限に抑えることのできる対策を行うこと、多職種でのアプローチ、患者や家族を巻き込んでの対策の実施を検討していきたい(「転倒・転落対策チーム」の確立など)。
https://www.min-iren.gr.jp/hokoku/data/hokoku_h28/houkoku_h28_08.pdf
② 病棟における薬剤関連事故発生率(民医連指標9)
【指標の意義】
薬剤安全管理者・薬剤師の病棟での役割のアウトカムとしての指標
【2016年当院数値】
薬剤関連事故発生率 0.42%(145/34714) 民医連中央値 0.23%
分子:薬剤ないし注射投与間違い(病棟のみ。レベル1以上)
分母:入院患者延べ数
【考察】
報告の分析を行ったがレベル2以上が6件であったが重篤なアクシデントはなかった。レベル0,外来からの報告をふくめた薬剤関連の報告は189件、インシデント報告書の総数は563件であり33.6%が薬剤関連であった。ひきつづきインシデントが発生した場合の速やかな報告と分析、現場へのフィードバックを行うこと、ハイリスク薬に関しての学習、注意喚起等を行っていきたい。
https://www.min-iren.gr.jp/hokoku/data/hokoku_h28/houkoku_h28_09.pdf
#2 全身ケア(栄養管理・褥瘡)
① 65歳以上低栄養の改善率(民医連指標6)
【指標の意義】
血清アルブミン値を使用し病棟での栄養改善のとり組みの指標とする
【2016年当院数値】
低栄養の改善率 42.31%(22/52)
分子:分母のうち退院時にアルブミン値が3.0以上となった患者
分母:入院時のアルブミン値が3.0未満の患者(65歳以上、入院が14日以上、死亡退院、肝硬変、ネフローゼを除く)
【考察】
民医連の中央値は25.62%でありそれを大きく上回った。
現時点での東大阪生協病院の栄養管理に関する指標となるが、さらにその向上に向けて取り組んでいきたい。
https://www.min-iren.gr.jp/hokoku/data/hokoku_h28/houkoku_h28_06.pdf
② 褥瘡新規発生率(民医連指標7)
【指標の意義】
褥瘡予防は提供される医療の重要な項目であり、栄養管理、ケアの質評価に関わる
【2016年当院数値】
褥瘡新規発生率 A) d1発生率 0.13% B) d2以上発生率 0.61%
分子:入院後に新規に発生した褥瘡の数
分母:新入院患者と前月最終日在院患者の合計
発生数はd1が3、d2以上が14
【考察】
民医連中央値はそれぞれA)0.33、B)0.83であり当院での発生率は低く一定の評価はできる。重度の褥瘡の持ち込み患者も多くその対応を行っているが、ひきつづき入院時からのアセスメントを行い褥瘡の発生、悪化のリスクに気付き、予防や早期処置による治癒向上をめざしていきたい。
https://www.min-iren.gr.jp/hokoku/data/hokoku_h28/houkoku_h28_07.pdf
③ NST回診率
【指標の意義】
当院はNST稼動認定施設であり毎週NST回診を実施しているが、回診患者の病棟入院患者に占める割合を独自指標とした
【2016年当院数値】
NST回診患者率 9.3%(214/2302)
分子:NST回診患者延べ数
分母:新入院患者と前月最終日在院患者の合計
【考察】
東大阪生協病院の入院患者のうち9.3%にNSTが関与していることになる。今後、NSTが関与したことによる栄養改善の指標などを検討したい。
#3 感染管理
① 注射針及びそれに準じる鋭利な器具による皮膚の損傷からの血液曝露例件数(民医連指標12)
【指標の意義】
他施設の状況知り比較することで、職員のリスク意識を高め、安全管理をすすめる。
【2016年当院数値】
8件(指標として0.66%)
【考察】
2015年が3件、2011年から統計を取りだしてから最多となった。それぞれの原因分析及び改善策は事故後に実施している。ひきつづき学習なども行い職員のリスク意識を高め安全管理をすすめたい。
https://www.min-iren.gr.jp/hokoku/data/hokoku_h28/houkoku_h28_12.pdf
② 中心静脈カテーテル感染率(民医連指標13)
【指標の意義】
- 血流感染は重篤な転帰となることが多いことから、マキシマムプリコーションが一般的には推奨されている。感染予防策・手技の徹底だけでなく、栄養状態の改善、栄養摂取方法の選択、他感染症の治療の適切性、コンタミネーションの鑑別・防止含めて総合的な質が求められる。留置日数が長くなればリスクも高い。発生率(対1000人日)で表す。
- 院内感染対策の充実度、特に刺入部のケアや一般的な清潔操作の遵守を反映。ただし、感染症サーベイランスが未整備であると、実際より低く表示されることに注意。
【2016年当院数値】
感染率 0.49‰
分子:中心静脈カテーテル関連患者数
分母:中心静脈カテーテル留置延べ日数
【考察】
民医連中央値は2.62‰であり大幅に低い。2015年、2014年は0.52‰。
以前と比較して感染率は低下しているが、マキシマムプリコーションの実施、維持管理などが行えていると評価できる。
https://www.min-iren.gr.jp/hokoku/data/hokoku_h28/houkoku_h28_13.pdf
③ 総黄色ブドウ球菌検出者のうちのMRSA検出率(民医連指標14)
【指標の意義】
黄色ブドウ球菌自体は皮膚に常在する場合があり、従って単純にMRSAの検出患者数をモニターした場合は、結果が検査数に影響を受けるため、総ブドウ球菌数を分母とすることで標準化する。
【2016年当院数値】
MRSA比率 58.4%
分子:MRSA検出患者数
分母:黄色ブドウ球菌検出入院患者数
【考察】
2015年は44.9%で民医連中央値は60.42%。JANIS院内感染サーベイランスの2015年データから計算するとMRSA比率は48.5%であり、比率は上昇している。保菌者の在院日数の増加による可能性もあるが分析は必要。厚労省は2020年にMRSA比率を20%以下にすることを目標としており抗菌薬の適正使用など今後も検討が必要である。
https://www.min-iren.gr.jp/hokoku/data/hokoku_h28/houkoku_h28_14.pdf
④ アルコール手洗い使用割合(民医連指標15)
【指標の意義】
感染対策の基本である手指衛生を順守する目安である
【2016年当院数値】
使用割合 4.70ml/人
分子:使用料 ml
分母:のべ入院患者数
【考察】
民医連中央値は5.26でありそれには届かなかったが、2014年が3.30、2015年が3.82であり年々上昇している。現在当院ではアルコール手洗い洗剤使用の使用目標を5000ml/月としているが2016年は4669mlであった。ICTを中心にした手洗いラウンドを実施しているがひきつづき職員への学習もふくめ活動をすすめていきたい。
https://www.min-iren.gr.jp/hokoku/data/hokoku_h28/houkoku_h28_15.pdf
⑤ 血液培養ボトルが2セット提出された患者割合
【指標の意義】
血液培養の2セット採取は原因菌の同定を行う上で重要であり独自指標として設定している
【2016年当院数値】
2セット提出患者割合 94.6%(211/223)
分子:血液培養2セット提出のべ患者数
分母:血液培養を実施したのべ患者数
【考察】
2015年は97.3%であった。血液培養実施数は、2014年146、2015年182、2016年223と増加している。
⑥ 血液培養での表皮ブドウ球菌コンタミネーション率
【指標の意義】
血液培養の際に皮膚常在菌の混入を防止し適切な採取ができているかを見るために独自指標を設定した
【2016年当院数値】
コンタミ率 1.4%(3/211)
分子:コンタミのべ患者数
分母:血液培養2セット実施患者数
【考察】
2015年は2.3%であった。一般的にはコンタミネーション率は3%以下が望ましいとされている。血液培養実施の手技などがこの間統一されていることなどの反映と考える。
#4 認知機能評価
① 高齢者への認知機能スクリーニングの実施(民医連指標42)
【指標の意義】
認知機能を適切に評価することで過剰な治療や人権侵害を防ぎ適切な対応を可能にすること
【2016年当院数値】
35.74%
分子:HDS-R、MMSEなどが実施され記録の残っている患者
分母:65歳以上退院患者数
【考察】
民医連中央値19.34%を上回っていた。今後とも認知機能評価が必要な入院患者に対して適切な評価を行っていきたい。
https://www.min-iren.gr.jp/hokoku/data/hokoku_h28/houkoku_h28_42.pdf
#5 チーム医療・退院支援・地域連携
① ケアカンファレンス実施率(民医連指標24)
【指標の意義】
カンファレンス記録を実施しチームでの情報共有が促進されプロセス・アウトカムを評価することが可能とすること
【2016年当院数値】
44.06%
分子:入院期間中に1回以上、医師、看護師、コ・メディカルによるカンファレンスをした患者数
分母:退院患者数
【考察】
民医連中央値48.01%よりは低かった。しかしながら2015年は25.22%であり倍増した。ケアカンファレンスを実施すること、それを記録することの意識付けができた結果であると思われる。さらに数値の向上に向けて取り組みをすすめたい。
https://www.min-iren.gr.jp/hokoku/data/hokoku_h28/houkoku_h28_24.pdf
② 在宅療養カンファレンス割合(民医連指標55)
【指標の意義】
地域における医療と介護の連携を促進し在宅療養を希望する患者・家族のニーズに応えるプロセスの評価である
【2016年当院数値】
61.17%
分子:入院中に多施設の担当者を交えて検討した患者数
分母:在院日数7日以上の退院患者
【考察】
民医連病院63病院中トップであった(中央値9.74%)。回復期リハ病棟を中心に在宅復帰に注力してきたが、地域包括ケア病床への一部転換、地域連携室の強化などもあり数値を押し上げた可能性がある。ひきつづき在宅療養整備に向けた多職種連携を進めていくこと、入院早期での家屋評価の実施の検討などを行っていきたい。
https://www.min-iren.gr.jp/hokoku/data/hokoku_h28/houkoku_h28_55.pdf
#6 がん検診
東大阪生協病院は組合員などを対象にした検診などを精力的に行っている。2015年度の東大阪生協病院のがん検診が東大阪市のがん検診に占める割合は、胃がん検診 33.0%、大腸がん検診 28.4%、乳がん検診 20.1%である。
① 胃がん検診後の胃がん発見率
【2016年当院数値】
胃がん発見率 0.072%(他院精査含む 0.116%) (2015年 0.163%)
胃がん検診(胃透視検査)は6905人、そのうち要精査と判定したのが238人(要精査率3.45%)、そのうち東大阪生協病院で内視鏡検査を行い胃がんと診断したのが5人(早期がん3 進行がん2)であった(その他3人が他院での内視鏡検査で胃がんと診断)。
平成26年度消化器がん検診全国集計の胃がん発見率は0.075%である。2015年は0.163%(胃がん検診 6742 胃がん 11)であった。
【考察】
ひきつづきがん検診の精度管理の向上に向けて取り組んでいく。従来通り、ピロリ菌感染の有無に留意した読影を行い、除菌療法、胃がん予防につなげていく。
② 大腸がん検診後の大腸がん発見率
【2016年当院数値】
大腸がん発見率 0.131%(11/8409) (2015年 0.200%)
大腸がん検診は8409人、そのうち要精査が556人(要精査率 6.61%)、そのうち東大阪生協病院で大腸内視鏡検査を実施し大腸がんと診断したのが11人(早期がん9 進行がん2)であった。他院で精査をしたものは含んでいない。
平成26年度消化器がん検診全国集計の大腸がん発見率は0.131%である。2015年は0.200%(大腸がん検診 7995 大腸がん 16)であった。
【考察】
ひきつづき検診精度の向上とともに当院での精査実施率をあげていくとり組みを検討したい。
③ 乳がん検診後の乳がん発見率
【2016年当院数値】
乳がん発見率 0.09%(3/3509) (2015年 0.31%)
乳がん検診は3509人、そのうち要精査と判定したのが138人(要精査率 3.93%)、そのうち乳がんと診断されたのは3人であった。
2015年は0.31%(乳がん検診3562 乳がん11)、2014年は0.19%(乳がん健診3164 乳がん6)である。
【考察】
乳がん検診後の精査は周辺の医療機関に依頼することが主であり、把握できていない件数がある可能性はある。ひきつづきがん検診に伴う精度管理などに留意して行っていきたい。
#7 患者満足
① 患者満足度アンケート総合評価で「満足している」と応えた患者の割合(民医連指標60)
【指標の意義】
・ 治療の結果、安全性と説明、療養環境、入院期間などに対する患者の満足度は、医療の質を測るうえで直接的な評価指標の重要な一つである。
・ 厚労省「医療の質推進事業」の必須項目
当院では医療福祉生協連が毎年実施している患者アンケートを用いて集計した。
【2016年当院数値】
外来 95.9%(376/392)
入院 100%(33/33)
【考察】
外来での満足度は2015年が88.6%(186/210)、2014年が90.8%(157/173)であり、満足度は大幅に上昇した。とくに待ち時間での改善傾向が高かった。入院に関しては母数が少なく今後改善の余地はある。
ひきつづき患者満足度の向上にむけて組合員・利用者の意見もとりいれながら職員一同取り組みたい。
https://www.min-iren.gr.jp/hokoku/data/hokoku_h28/houkoku_h28_60.pdf