医療の質 QI推進活動報告2020年
はじめに
QIとは、Quality Indicator(質の指標)の略で、構造(ストラクチャー Structure)過程(プロセス Process)結果(アウトカム Outcome)の3つの側面で評価されます。またQIは、Quality Improvement(質の改善)という意味もあります。
自分たちの提供している医療の質がどうなのかを指標という形で数値で表し、それを継続的に測定しさらに改善に生かしていくことをめざしています。QIは「どれだけがんばった」から「どれだけよい結果につながったか」をしめすモノサシでもあります。
東大阪生協病院は2012年から全日本民医連QI推進事業に参加し、2014年から毎年QI活動報告集会を行っています。
今回、2020年の指標(民医連指標および病院の独自指標)の一部に関してホームページ上での公開を行います。
民医連指標の意義、指標の計算式(分子・分母の定義)などは下記のホームページを参照してください。参照:全日本民医連は「医療の質の向上・公開推進事業」(https://www.min-iren.gr.jp/hokoku/hokoku.html)
#1 安全管理
① 転倒・転落発生率(民医連指標6)
指標の意義
転倒・転落を予防し、外傷を軽減するための指標、とくに治療が必要な患者を把握する
指標として3項目
分子A 報告のあった入院患者の転倒・転落件数
分子B 入院中の患者に発生したインシデント影響度分類レベル3b以上の転倒・転落件数
分母 入院患者延べ数
2020年当院数値
A 報告のあった入院患者の転倒・転落件数 193件
入院患者の転倒・転落発生率 5.85%
B入院中の患者に発生したインシデント影響度分類レベル3b以上の転倒・転落件数 29件
入院患者での転倒転落によるインシデント影響度分類レベル3b以上の発生率 0.88%
(民医連中央値 0.10%) 2019年 4.30%(2019年民医連中央値 0.09%)
考察
排泄時・移動時の転倒が増加している。
入院当初より、患者個々の日常生活自立度や認知症度の把握を行い、ベッド周囲の環境設定をしているが事故を減らす事ができていない。入院時の危険度から、転倒転落リスクを評価し、センサー類の選択や環境設定など
早急な対応を継続していく。スタッフ間で患者の危険度を共有し早期に危険予測を行い、転倒転落委員会による定期ラウンドの実施・対策案を提起する。
② 病棟における薬剤関連事故発生率(民医連指標7)
指標の意義
薬剤安全管理者・薬剤師の病棟での役割のアウトカムとしての指標
2020年当院数値
薬剤関連事故発生率 0.12%(民医連中央値 0.32%) 2019年 0.17%(2019年民医連中央値 0.33%)
分子 薬剤投与違い、注射間違い(病棟のみレベル1以上)
分母 入院患者延べ数
考察
- 指標自体は低下していますが、薬剤関連のインシデント報告が大幅に減少。
(全体のインシデント報告数も減っている)。 - レベル2以上は全体で3件
(2019年 5件 2018年 4件 2017年 7件)ですが、レベル3以上の報告はなし。
:3階病棟 インスリン指示量の確認ミス
:内科 ワクチン確認ミス
:内科 喘息患者 点滴指示漏れ - 71件の報告者の内訳は、
病棟看護師 40(59) 外来看護師 16(24) 薬剤師 11(27)
医師 4(3 )です。( )内は2019年。
病棟からの報告数(看護師、薬剤師)の報告が大幅に減少 - 外来でのワクチン接種に関わるインシデント、病棟でのインスリン指示量の確認漏れなど今年も同じような報告があり、インシデントレポートの職場などでの検討が必要。
#2 全身ケア(栄養管理・褥瘡)
① 65歳以上低栄養の改善率(独自指標)
指標の意義
血清アルブミン値を使用し病棟での栄養改善のとり組みの指標とする
2020年当院数値
低栄養の改善率 34.57% 2019年 53.13%
分子 退院直近の血清アルブミン値が3.0g/dl以上になった患者数
分母 当該月の65歳以上退院患者のうち入院3日までの血清アルブミン値が3.0g/dl未満の患者数
2回以上アルブミン検査を実施している患者数
考察
- 生協病院の栄養改善の取り組みに関する指標は、前年よりも低下している。
- 指標の分母(入院時の血清アルブミン値が3.0g/dl未満の患者数)が、
2016年 52、2017年 72、2018年 109とこの2〜3年で大幅に増加している。
2019年は96、2020年が89。
入院数自体の増加、低栄養の患者(在宅・施設管理、超高齢者、がん患者など)が増えているものと思われる。 - アルブミン値が増加した患者割合は前年とほぼ同じであった。
4人のうち3人がアルブミン値が増加した ≒「一定、栄養状態は改善した」 - 今後とも低栄養、サルコペニアなどの入院患者の増加傾向は続く可能性があり、引き続き栄養改善を目標とした多職種(医師、看護師、管理栄養士、リハビリセラピスト、薬剤師など)による取り組みが必要である。
② 褥瘡新規発生率(民医連指標5)
指標の意義
褥瘡予防は提供される医療の重要な項目であり、栄養管理、ケアの質評価に関わる
2020年当院数値
褥瘡新規発生率 B)d2以上発生率 0.04%(民医連中央値 0.08%)
2019年 0.05%(2019年民医連中央値 0.07%)
分子 B)d2(真皮までの損傷)以上の院内新規褥瘡発生患者数
分母 入院患者延べ数
考察
- 2020年より褥瘡新規発生指標の変更あり、d2以上の発生率をみていくことになった。
- 2018年、2019年と比べて発生率は下がっている。褥瘡マットの使用、ハニカムクッションの取り組み、栄養面での介入を積極的に進めてきた結果と考える。
- 全国でみても低い値となっており評価できる。
- 引き続き、入院時及び日々のアセスメントにより褥瘡発生・悪化の危険リスクに一早く気付き、褥瘡対策
チームで早期介入することでの予防及び早期処置による治癒率の向上が求められる。
#3 感染管理
① 注射針及びそれに準じる鋭利な器具による皮膚の損傷からの血液曝露事例(民医連指標10)
指標の意義
他施設の状況を知り比較することで職員のリスク意識を高め安全管理をすすめる
2020年当院数値
件数 1件(割合 0.03%)(民医連中央値 0.10%) 2019年 0.33%(2019年民医連中央値 0.11%)
考察
2020年は1件のみと大幅に減少、一方分母が入院患者延べ数であり発生場所が院外であったがすでに民医連へ報告済みであるためそのままとした。在宅での針刺し事故のみだったが今年も訪看で針刺しが起きており、院外での使用済み針処理の周知が必要。
② 中心ライン関連血流感染発生率(民医連指標11)
指標の意義
血流感染は重篤な転帰となることも多くマキシマムプリコーションが一般的に推奨されている
指標は院内感染対策の充実度、特に刺入部のケアや一般的な清潔操作の遵守を反映する
2020年当院数値
発生率 2.32%(民医連中央値 2.20%) 2019年 4.56%(2019年民医連中央値 1.75%)
分子 当月の中心ライン関連血感染件数
分母 当院患者の中心ライン留置延べ日数
考察
カテーテル留置数は前年の約2倍、感染者数は前年と同数の2件で感染率低下しており改善あり。
経年変化を民医連中央値と比較すると民医連中央値は改善されているが、当院は2018年以降民医連中央値を超えている状況。2例ともカンジダが検出された事例。
⒈内頸静脈留置70日後に発熱、抜去後再挿入 ⒉鼠径部留置25日後発熱
③ 総黄色ブドウ球菌検出者のうちのMRSA比率(民医連指標12)
指標の意義
黄色ブドウ球菌は皮膚に常在する場合が有り、単純にMRSAの検出患者数をモニターした場合は、結果が検査数に影響を受けるため、総ブドウ球菌数を分母とすることで標準化する
2020年当院数値
MRSA比率 64.46%(民医連中央値 57.94%) 2019年 51.55%(2019年民医連中央値 53.94%)
分子 期間内のMRSA検出入院患者数
分母 期間内の黄色ブドウ球菌検出入院患者数
考察
黄色ブドウ球菌総数は減少、MRSA数横ばいで比率が高くなっている。
検体検査総数は2019年2020年でほぼ変わらず。MRSAの院内発生率で比較すると
2019年:16/2139=0.69 2020年:19/2236=0.85 発生率は0.69→0.85と高くなっている状況。
手指衛生のタイミング等周知が必要で、学習会の開催・ラウンド時の手洗いチェック等行なう。
④ アルコール手洗い使用割合(民医連指標13)
指標の意義
感染対策の基本である手指衛生を遵守する目安とする
2020年当院数値
使用量 ml 13273.33ml(使用割合 4.66%) (民医連中央値 9.19%)
2019年 10657.5ml(使用割合 3.64%) (2019年民医連中央値 6.24%)
考察
2020年は、コロナの影響で品薄状態が続き供給制限がかかった時期もあり評価が難しいが、3.64→4.66と前年を上回っている点では評価できる。民医連中央値との比較では、2017年以降は差が大きくなっている。
2021年は手洗い学習会 手洗いキャンペーンを設け、手洗いの重要性を周知する。
#4 認知機能評価
高齢者への認知機能スクリーニングの実施(民医連指標42)
指標の意義
認知機能を適切に評価することで過剰な治療や人権侵害を防ぎ適切な対応を可能にすること
2020年当院数値
割合 47.14%(民医連中央値 31.57%) 2019年 32.91%(2019年民医連中央値 26.22%)
分子 HDS-R、MMSE、CGA等の認知機能スクリーニングが実施された結果が記載されている患者
分母 入院日数が4日以上で65歳以上退院患者数
考察
当院:47.14%(回リハ実施率90%)
2019年 32.91%(回リハ実施率78%)
2019年民医連データ 75% 値:47.86% 中央値:26.22%
#5 チーム医療・退院支援・地域連携
① ケアカンファレンス実施割合(民医連指標23)
指標の意義
カンファレンス記録を実施しチームでの情報共有が促進され、プロセス・アウトカムを評価することが可能とすること
2020年当院数値
割合 43.73%(民医連中央値 55.22%) 2019年 47.24%(2019年民医連中央値 55.39%)
分子 入院期間中に1回以上、医師・看護師・コメディカルによるカンファレンス記録のある患者
分母 退院患者数
考察
中央値:2019年55,39%→2020年↑58.53%
当院値:2019年47.24%→2020年↓43,73%
カンファレンス率低下傾向。施設転院増加、コロナ禍で密の軽減。
2020年7月から初回カンファレンス開始、定着、継続、内容の工夫必要。
② 在宅療養カンファレンス割合(民医連指標53)
指標の意義
地域における医療と介護の連携を促進し、在宅療養を希望する患者・家族のニーズに応えるプロセスの評価
2020年当院数値
割合 86.54%民医連中央値 10.14%) 2019年 86.89%(2019年民医連中央値 11.49%)
分子 入院中に退院に向けて退院後の在宅療養を担う事業所の担当者を交えて検討を行った患者数
分母 在院日数7日以上の患者数
考察
毎年高水準で実施率高い。回リハ、急性期共に、連携強化で在宅復帰の拘りの成果がでている。
継続課題:フォローアップ訪問、フィードバック、地域・他部署連携への継続、内容充実した初回カンファの開催。
#6 がん検診
東大阪生協病院は組合員などを対象にした検診などを精力的に行っている。2017年度の東大阪生協病院のがん検診が東大阪市のがん検診に占める割合は、胃がん検診 33.8%、大腸がん検診 30.1%、乳がん検診 21.8%、肺がん検診 31.5%、子宮がん検診 14.1%である。
① 胃がん検診後の胃がん発見率
2018年1月から東大阪市の内視鏡検診が開始された。
2020年当院数値
胃透視検診後の胃がん発見率
0.021%(胃がん検診 4658 胃がん 1(早期1) 2019年 0.068%)
他院で精査を実施した件数は含んでいない。2017年度消化器がん検診全国集計の胃がん発見率は0.072%である。
内視鏡検診後の胃がん発見率
0.259% 胃がん発見数 2 内視鏡検診数 771
2019年度内視鏡検診全国集計の胃がん発見率は0.174%である。
考察
- 胃透視検診、内視鏡検診ともにがん発見率は、全国平均値を下回った。
- 2020年は検診が実施できなかった期間もあり、胃透視検診は前年より大幅に減少したが、内視鏡検診は前年より増加した。今後も胃透視検診は減少、内視鏡検診希望者の増加傾向が続く。
- 胃透視+内視鏡検査の全体での検診実施数を増やしていく。特に内視鏡検査(検診)の単位数の増加は必要。
- ピロリ検診もふくめてピロリ陽性者の抽出を行い、ピロリ除菌で将来的な胃がん予防に繋げていきたい。
② 大腸がん検診後の大腸がん発見率
2020年当院数値
大腸がん発見率 0.103%(大腸がん検診 6772 大腸がん 7 2019年 0.120%)
他院で精査を実施した件数は含んでいない。検診の要精査率は6.56%。2017年度消化器がん検診全国集計の大腸がん発見率は0.128%である。
考察
- 大腸内視鏡検査件数は417件(2019年 545件 2018年 583件)で前年より減少した。
ポリペクトミーは85件(2019年 132件 2018年 138件)。 - 検診の実施できない時期があり大腸がん検診件数は前年を大きく下回った。
それに伴い、大腸内視鏡件数および大腸CT検査数も減少した。 - 精密検査実施率の全国平均は59.7%である。大腸CT検査を合わせて50%以上の精検実施率を。
③ 乳がん検診後の乳がん発見率
2020年当院数値
乳がん発見率 0.32%(乳がん検診 2856 乳がん 9 2019年 0.15%)
乳がん検診は2856人、そのうち要精査と判定したのが109人(要精査率 3.82%)。
国立がん検診センターによる乳がん発見率 0.33%(2017年)
考察
乳がん検診後の精査は周辺の医療機関に依頼することが主であり、把握できていない件数がある可能性はある。引き続き、がん検診に伴う精度管理などに留意して行っていきたい。
④子宮がん検診後の子宮がん発見率
2020年当院数値
子宮がん発見率 0.041%(子宮がん検診 2381 子宮がん 1 2019年 0.037%)
国立がん検診センターによる子宮がん発見率 0.04%(2017年)
考察
子宮がん検診後の精査は周辺の医療機関に依頼することが主である。引き続き、がん検診に伴う精度管理などに留意して行っていきたい。
#7 患者満足
① 患者満足度アンケート総合評価で「満足している」と応えた患者の割合(民医連指標61)
医療福祉生協連が毎年実施している患者アンケートを用いて集計した。
2020年当院数値
外来 94.0%(300/319) 2019年 94.2%
入院 91.4%(33/35) 2019年 91.4%
考察
昨年と比べ若干下がっているが、ほぼ変わりがない。
前回から下がった項目
【外来】
「職員の説明で、病気、検査、薬のことは十分理解できた」0.5ポイントマイナス
「医師の診断や治療は納得できるものだった」0.5ポイントマイナス
【入院】
「退院時に支払うおおよその費用は、事前に知らされていた」2.5ポイントマイナス
「医師にはわからないことをききやすかった」1.6ポイントマイナス
医療サービス課や医局での情報共有が必要と報告した。
前回から改善した項目
【外来】
「診察、会計、薬などの待ち時間は我慢できるものだった」0.5ポイントプラス
【入院】
「医師の診断や治療の結果は納得できるものだった」0.8ポイントプラス